【開業医企画】親から継いだ医院は意外と大変?継承開業の実態とは|ドクターズアイ.com
新規開業よりラクとは限らない継承開業
現役医師の皆様のお役に立つ情報を提供する「ドクターズアイ.com」が、開業医に関連したトピックスをコラム形式でお届けします。今回は継承開業を題材にしたコラムです。医院の開業には、大きく分けて2つの方法があり、自身で新規開業するパターンと親や第三者が経営している医院を引き継ぐ継承開業のパターンに分けられます。継承開業はゼロベースから開業するよりラクに思えますが、実は引き継いだゆえの苦労や悩みも意外と多いそうです。当コラムでは、特に親子間継承の大変さについて掘り下げていきます。
親子間で事業承継することのメリット
新規開業や第三者の医院を継承するよりも、親が経営している医院を継承することには大きなメリットがあります。最大のメリットは開業に伴う初期費用を最低限に抑えられること。イチから医療機器を購入する必要もなければ、自身の親からの継承となるため余計な気遣いも必要ないのです。そして、それは医院の土地、建物、医療機器の導入にかかる費用だけではありません。既存の患者さんがいるため、集客のための広告費用も抑えることができます。
また、親の医院を引き継ぐということで、開業当初からすでに一定の信頼感を得ているというメリットもあります。“次期院長”として子も診察を行ったり、親子間で患者様の情報が共有されていたりすることもあり、世代交代後も地域に愛される医院であり続ける可能性は高まります。一方、同じ継承開業であっても第三者による継承の場合、同じ立地の医院ではあっても見知らぬ先生に診てもらうことになるため、違う医院という印象を受けるのではないでしょうか。それは患者さんの心理からすると、新規開業の医院と代わり映えがありません。
そういった意味でも、すでに信頼を得ている“先代の子どもであるという事実”だけで、患者さんの信頼をある程度得られるというのは、親子間継承のメリットだと言えます。先代が築いた土台をうまく活用して経営することが、医院を受け継ぐうえで重要なポイントになるのです。
継承開業で起こりうる問題点とは
新規開業や第三者による継承に比べ、メリットが多い印象のある親子間の継承ですが、血がつながっている者同士ゆえのデメリットも存在します。まず考えられるのは、親子間で気心が知れているからこそ生じる意見の対立です。第三者であればビジネスライクに進むことも、親子であるがためにさまざまな感情が入りこみ、トラブルに発展してしまう例が少なくありません。
親子間とはいえ、仕事となればそれぞれの利害が少なからず生じます。時代背景や学んできた専門領域の違いから、医療に対する基本的な考え方、診療方針、最新の医療機器の導入などで親と意見が対立することも十分に考えられます。些細なことでも衝突を繰り返すようになってしまうとスムーズな継承は期待できません。挙げ句の果てには「お前には跡を継がせない」「お前に託したのは間違いだった」というような親子関係すら危ぶまれる事態にまで発展するケースもあるようです。
また、医院の場所を選ぶことができないことも親子間での継承におけるデメリットの1つです。引き継いだ医院が人口減少地域であったり、競合が多い地域であったりした場合は経営の工夫が求められます。「医院の場所を移す」「患者さんを集客するために費用をかけてリフォームする」「最新の医療機器を導入する」などの必要性があるとしたら、親子間での継承のメリットは少なく、新規開業と同等の費用がかかってしまうこともあるでしょう。
親子間の継承をスムーズに行うためのポイント
親子間の医院継承を上手にスムーズに行うには、早い段階で先代と医療に関する意見を交わし、医院経営における“共通認識”を持つことが大切です。医院経営における考え方にズレがなければ、代が変わった際に患者さんが急に離れてしまうリスクも抑えられるでしょう。
そのためには継承後ではなく、親が医院を経営しているうちに勤務を開始することをおすすめします。継承する前から患者さんと顔を合わせておくことで、親近感を抱いてもらうことは非常に重要です。長年お世話になっている先生の子どもということで、患者さんからかわいがられる存在になれるかもしれません。引き継ぐタイミングですでに既存の患者さんから認められる存在になっていれば、親が退いた後に苦労することも少なくなるでしょう。
継承前に医院での診療を開始できない場合は、週1だけでも親にも勤務してもらったり、たまに顔を出してもらったりするのもいい方法かもしれません。特に年配の患者さんは、定期的に医師とコミュニケーションを取ることを楽しみにしている方も少なくないため、馴染みのある先代の先生と少し会話ができるだけでもうれしく感じてもらえるかもしれません。決して親への甘えだとは思わず、患者さんのためにそういった試みを企画することも経営者として重要な視点なのです。
医院の親子間継承には、周囲にはわからない苦労がたくさんあるかもしれません。ただ、先代が築いた土壌を活かして医院経営を行うことは多くのチャンスも転がっているだけに、“親のいいところをうまく利用するというしたたかさ”を持つことが、医院の跡取りにとって一番重要なファクターなのかもしれません。