チーム医療の中核を担う医師に求められる資質とは?|ドクターズアイ.com
質の高い治療やケアを実現するチーム医療
現役医師の皆様のお役に立つ情報を提供する「ドクターズアイ.com」が、勤務医に関連したトピックスをコラム形式でお届けします。第5回の今回はチーム医療についてです。近年、医療関係の報道やドラマなどで多く取り扱われている“チーム医療”。医療環境のモデルの1つで、医療従事者が互いに対等に連携し治療やケアに当たることで、患者さん中心の理想的な医療を実現しようという取り組みです。医療において中核を担うのは間違いなく医師ですが、医師の力だけでは医療は成立しません。チーム医療をより高いレベルで実現するために、医師には何が求められているのでしょうか?
多岐にわたるチーム医療に関わる職種
現在、チーム医療に注目が集まっている背景としては、医療の高度化、細分化などが挙げられます。医療の進歩により対応できる治療の幅は広がりましたが、その分、医師にもより多くの対応を求められるようになってきています。また、患者さんやそのご家族からの要求も多様化していることも相まって、医師と看護師だけですべてをケアすることは困難になりつつあるのです。医師、看護師以外の専門的な知識を持つ医療従事者の協力はもはや必要不可欠と言えるでしょう。
具体的には医療ソーシャルワーカー、医療リンパドレナージセラピスト、管理栄養士、義肢装具士、救急救命士、言語聴覚士、作業療法士、歯科衛生士、視能訓練士、診療情報管理士、診療放射線技師、精神保健福祉士、薬剤師、理学療法士、臨床検査技師、臨床工学技士、細胞検査士、臨床心理士など、医療に従事するスタッフにはこれだけの職種が存在します。この中から患者さんの病気の状態により、適時チームを組み、治療、ケアに的確に対応できる“ベストな陣容”で臨むことが求められます。
そして、このチーム医療において忘れてはいけないのが患者さん、そしてそのご家族の存在です。患者さん本位の治療が行われることが、チーム医療の基本中の基本。ご家族の協力も合わせて、全員で病気に立ち向かって初めてチームと呼べるのです。最高のスタッフをそろえたとしても患者さんが後ろ向きでは、治療のプランも予定通りには進みません。チームの中心として医療スタッフについてきちんと説明し、患者さんを勇気づけることでチーム一丸となれる体制を築くことも医師の役目だと言えるでしょう。
チーム医療において医師はリーダーであるべき
上述したような各分野のエキスパートで編成し、力を合わせて医療に取り組むわけなので、チーム医療における医師の役割は、治療のみに注力することではありません。チームのリーダーとしてうまく全体をマネジメントする能力も同様に求められます。医療の中心は紛れもなく医師であり、それは今後も変わることはないでしょう。したがって中心となる医師の手腕にこそ、チーム医療の成否は変わってくるのです。
医師はまず、スタッフ全員が自分の意見を言いやすい雰囲気を作り出すことから始める必要があります。もちろん、治療方針などにおいて最終的な判断を下すのは医師です。しかし、チーム医療の最大の目的は、それぞれの専門家の英知を結集させることで患者さんの意思を汲んだ治療を行うことです。この目的を果たすためには、スタッフ全員が忌憚なく意見を言い合える環境が必要になります。時には、スタッフが臆することなく医師に対して反対意見を言うことも大切なのです。
医師だけの力で患者さんを救うという時代は終わりを迎えようとしています。医療においても適材適所の人材が、各分野で存分に力を発揮するためにも、医師が自身の役割を自覚することが不可欠です。「患者さんを救い、健康になってもらうための手立てとして何が最適か」を常に考え、自分の手を動かすだけではなく、チームのリーダーとして最善策を見出すために頭を働かす必要があります。優秀な医師が、チーム医療の優秀なリーダーであるとは限りません。いかにうまくマネジメントし、チームとして機能するのかを考えることが大切です。
ますます重要性が高まるチーム医療
医療がさらに今後発展していくうえで、医師が必要とすべき知識の量はますます増えていくことが考えられます。そうした際に、医師の専門分野ではない領域を補完できるスタッフがいることは、この上なく心強いと言えるでしょう。医師も人間であるため、自分だけでカバーできる範囲は当然、限られてきます。いかに自分が技量や知識を身につけるのかよりも、いかに自分にない技量や知識を持った人とうまく仕事ができるかがキーであり、協力体制だからこそできることも数多く存在するはずです。
また、チーム医療がもたらすメリットとしては、病気の早期発見や回復促進、重症化予防などがありますが、それ以上に大きなメリットとして医療の効率化による医療従事者の負担の軽減が挙げられます。
医師不足の医療界、勤務医は転職先に困らない? でも紹介しましたが、近年の医療業界は慢性的な医師不足に陥っています。医師の過度な負担を軽減するためにも、各分野が協力することが重要です。
常態化してしまっている医師不足という現実を解決することは、簡単なことではありません。そのため、医師不足の問題をチームの結成で補うことができたら、そんな素晴らしいことはないでしょう。それぞれの専門知識を持った医療従事者がチームとなり自分ができることをスピーディーに的確に行うチーム医療の重要性は今後、ますます高まっていくはずです。チーム医療を業界のスタンダードとしていくためには、医師自らがチームマネジメントの必要性認識し、意識変革をしていかなければなりません。