病院内部に属する勤務医の事情~気疲れするオンコール体制~|ドクターズアイ.com
オンコール体制で気が休まらない医師の事情
現役医師の皆様のお役に立つ情報を提供する「ドクターズアイ.com」が、“病院内部に属する勤務医の事情”についてのシリーズコラムをお届けします。第5回の今回は、オンコール体制を題材にしたコラムです。医師である以上、急患の対応は宿命であると言えます。特に即座の対応が求められる救急医療に従事する勤務医の場合、指定の出勤日以外にも呼び出しがかかる、いわゆる“オンコール体制”が当然な状況にあります。ただ、非番の日でも「お呼びがかかるかも」という緊張状態にいることは、身を削りながら仕事をすること意味するのです。
医療業界において不可欠なオンコール体制
2012年に独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によると、過去1ヶ月間におけるオンコール出勤について、実に88.2%がその必要性があったと回答しています。9割に近い勤務医がオンコールによる出勤を強いられているという現状は、人材難の医療業界の実情を物語っています。
同調査では、勤務医全体の40%以上が週の勤務時間において60時間以上と回答。1年間に取得した年次有給休暇の取得日数も約半数(47.2%)が3日以下と回答しており、勤務医の過酷な勤務状況が浮き彫りとなっています。そうした、ただでさえ医師不足な状況において、常に“猫の手も借りたい”ような状況で働いているがために、急患があった場合の対応は困難を極めます。
医師が不足しているからといって、急患の受け入れや急変の患者さんの対応をしないというわけにはいきません。結果として少数の医師でそれらに対応しますが、院内にいるメンバーだけでは対応できないケースも珍しくありません。そうした場合に必要なのがオンコールなのです。現状では、オンコールによって非番の医師にかけつけてもらうというのが、急患による人手不足を解消する最善策となってしまっています。
労働時間を巡り訴訟に発展したケースも
ただでさえ休みが少ない勤務医が非番の日でも呼び出されるというオンコール体制の問題は、単純に勤務時間の過酷さだけではありません。そうした悪条件下の労働において、それに見合った対価が支払われていないという点も大きな問題となっています。実際、2006年12月には奈良県の産婦人科医2人が県に対して、時間外手当支払い請求の訴えを起こしています。
2人の医師はそれぞれ2004年、2005年の2年間で当直を155日、158日。宅直(いわゆるオンコール)を120日、126日行っており、当直に対しては1回2万円支給されるものの、宅直に関しては実際に呼び出しがあって診療を行った場合でも手当の支給はなかったということで、労働環境の改善も含め提訴に踏み切りました。
奈良地方裁判所は、2009年4月に医師の宿日直が断続的労働に当たらないとして時間外手当の請求を認めました。その後2013年には最高裁が上告を受理せず判決が確定していますが、医師不足が続いている現状においては、この一件はほんの“氷山の一角”に過ぎないでしょう。根本的な解決に至るにはまだまだ多くの壁が存在するのは事実なのです。
心身の休息がままならないなら転職も視野に
上述した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」では、「疲労感」を60.3%、「睡眠不足感」を 45.5%、「健康不安」を 49.2%の人が感じているとの結果も出ています。そしてこの慢性的な疲労感の中で仕事をすることによって、76.9%の人が「何らかのヒヤリ・ハット体験」があるとも証言しています。これは医師不足による大きなトラブルが起こる可能性があることを示しているデータであり、決して見過ごすことはできません。
医師である以上、急患に対応することも重要な役割であり、大きなやりがいを感じられる瞬間でもあります。しかし、それも本人の心身の健康が伴っていなければいずれ大きなミスなどを起こすことにもつながりかねません。あまりにも過酷な勤務状態の中では最高のパフォーマンスを発揮することは困難であり、医療業界全体で見直していかなければならない点なのです。
ただ、医療業界全体の問題は一朝一夕に解決するわけではないので、現在もオンコール体制や勤務状況に悩まされている勤務医の方は転職を視野に入れた方がいいでしょう。常に心身の休息がままならないといった状況は、いい医療を提供できる状況ではありません。「自分さえ頑張れば」という自己犠牲の精神は素晴らしいことではありますが、無理なく健康状態で働くということは、ご自身にとっても患者さんにとってもベストな選択であるのではないでしょうか?