病院内部に属する勤務医の事情~モンスターペイシェントの急増~|ドクターズアイ.com

急増するモンスターペイシェントの実態とは

現役医師の皆様のお役に立つ情報を提供する「ドクターズアイ.com」が、“病院内部に属する勤務医の事情”についてのシリーズコラムをお届けします。第6回は「モンスターペイシェント」についてです。「モンスターペアレンツ」などに代表されるように、最近、度を超えた主張をしてくる困った人に対して“モンスター”の呼称がつけられています。そんな中、急増中だと言われているのが、「モンスターペイシェント」です。要は「厄介な患者さん」のことであり、病院関係者の頭を悩ます存在となっています。

 

多くの医師が被害経験をもつモンスターペイシェント

必要以上に病院や医師、看護師に対してクレームを入れまくる「モンスターペイシェント」が増え始めたのは、医療事故がニュースで大きく扱われ、医療不信が高まった2000年辺りからだと言われています。それから15年以上が経過した現在において、実際に被害を受けていた経験のある医師や看護師はどのぐらいのいるのでしょうか。

メドピア株式会社が運営する医師のコミュニティサイト「MedPeer」(https://medpeer.jp/)が2016年8月に発表したモンスターペイシェントに関する調査では、勤務医の53%が「暴言や無理難題などの対応に苦慮する患者の診察経験がありますか」の問いに対して「はい」と回答しています。これは開業医の43%よりも高い数値です。

勤務医の方が開業医に比べ数字が高いことに関しては、勤務医の働く病院の方が重病の患者が多く、専門的な治療が必要とされているからだと推測されます。患者さん自身も、そのご家族も病気の状況がはっきりしないと、不安に襲われるはずです。冷静さを保っていられなくなると、周囲の人間に冷たく当たったり、自己を制御できなくなったりしてしまいます。勤務医の2人に1人以上が、モンスターペイシェントによる何らかの被害を受けた経験があると回答しているだけに、もはやこのようなシーンはなんら珍しい光景ではなくなってきているようです。

 

度を越えた迷惑行為におよぶ患者への対応

近年問題視されているモンスターペイシェントですが、実際に病院内でどんな迷惑行為におよぶのでしょうか。多く挙げられるのが医師に対する迷惑行為です。その筆頭が「暴言、暴力行為」「必要のない薬をよこせといった強要」「同じ質問の繰り返し」であり、診断に対する不平不満のはけ口として、医師が被害に遭っているのが現状だと言えます。

また、医師だけではなく、「女性看護師に対するセクハラ行為」「同室の患者への暴言、暴力行為」とさまざまな対象に被害が及ぶ点もモンスターペイシェントの悩ましいところです。困った患者が一人いるだけで、周りの多くの人が被害を受けてしまうので非常に厄介な存在と化します。そして、医療業務に支障をきたすほどの度を超えた暴言や暴力行為、理不尽な要求やクレームを繰り返し、最終的には難癖をつけた挙げ句に医療費を踏み倒すといったケースも少なくありません。

もちろん病院の場合、飲食店やホテルにやってくるお客様と違い、病状によっては死と向き合い、死に対する不安や恐怖から理不尽な要求や暴言、暴力行為に至ってしまうといったこともあります。そのため、すべてをモンスターペイシェントとして厄介者扱いすることもできません。患者さんに対して腫れ物に触れるような対応をすることで、病院や治療に対して余計に不信感や不安を募らせてしまうことにもつながりかねないのです。

 

感情的にならない冷静な対応が不可欠

非常に困った存在であるモンスターペイシェントですが、対処法がないわけではありません。万が一、危険因子となりうる患者さんが身近にいる場合は、「患者さんに対してできること」「自身(チーム)のためにすべきこと」の2パターンに分けて対処法を実践するようにしましょう。

その1:患者さんに対してできること

まずは患者さんとの対話不足がないか、患者さんが納得するだけの説明をしているかどうかを改めて確認してください。冷静に話を聞き、しっかりとした対話がなされているにもかかわらず、度を越えた暴力やセクハラ行為におよぶようであれば、速やかに警察へ連絡する必要があります。また、何度説明をしても理不尽な要求やクレームを止めないといった場合は、他の患者さんへの対応を理由に改めて話し合いの時間を設定し、一旦クールダウンさせるといった形でまずは事態を収束させましょう。その後は責任者と連携し、病院側としての対応を示していくことが重要になります。

その2:自身(チーム)のためにすべきこと

犯罪行為であったり、あまりにも理不尽な要求だったりする場合、毅然とした対応をすることは、勤務医としてチームのメンバーや他の患者さんを守ることにもつながります。モンスターペイシェントに対峙する際には何を守るべきかを第一に考えた行動が先決となります。相手がどんなに感情的であっても、自分がそれに合わせてしまうのではなく、まずはグッと耐えて話を聞いている姿勢を見せましょう。理不尽な発言に途中で思わず口を挟みたくなるかもしれませんが、まずは落ち着いてもらうことで周囲への影響を最小限に留めることができるのです。

モンスターペイシェントに限らずクレームを入れてくる人に対して、「対応させられている」という気持ちで臨むと余計にストレスや苛立ちが募ります。なので、心に余裕を持って「不安を受け止めてあげよう」くらいの気持ちで臨むと比較的落ち着いて話を聞くことができます。モンスターペイシェントは医療従事者にとって非常に厄介な存在です。しかし、相手も人間なのでまずは真摯に向き合って対話をしてみましょう。それでも解決せず、やむなく法的措置を取ることになったとしても、医師であるあなたは何一つ悪くはありません。