開業医の経営者としての悩み~浸透しない”かかりつけ医制度” ~|ドクターズアイ.com

日医かかりつけ医機能研修制度をご存知ですか?

現役医師の皆様のお役に立つ情報を提供する「ドクターズアイ.com」が、開業医についてのシリーズコラムをお届けします。「患者のミカタ“かかりつけ医”としての地位を築く方法とは?」でご紹介しましたが、患者さんからすると安心して自身の病状について相談できる医師が身近にいると心強く感じるものです。日本医師会もかかりつけ医を増やし、診療所での受診率を上げるために「日医かかりつけ医機能研修制度」を実施しています。ただ、現状一般の知名度はまだまだのようです。社会に制度が浸透するには、一人ひとりの医師に何をすべきなのでしょうか。

 

日本医師会が実施するかかりつけ医の研修制度とは

「身体の具合が悪くなっても、すぐに相談できる先生がいるから安心」と多くの人がそう思える社会を形成できたらどんなに素晴らしいことでしょう。日本医師会による「日医かかりつけ医機能研修制度」はそうした理想の社会を実現するために実施されました。今後さらに深刻さをますであろう少子高齢社会を見据え、“地域住民から信頼されるかかりつけ医”としての能力を維持・向上することを目的としています。

本制度の大まかな流れとしては、基本研修、応用研修、実地研修の3つの段階。それらのステップを経て最短1年間で修了できる研修です。具体的には、かかりつけ医としての「倫理」「質・医療安全」「感染対策」などの意識の面を学び、かかりつけ医の在宅医療・緩和医療などの講習を受け、それぞれの項目を単位として修得することを目指します。

日本医師会が研修制度まで作り、かかりつけ医の普及を推し進める背景には、二つの要因があります。一つ目はそれほど症状の重くない患者でも大病院に集中し、重症患者のケアが行き届かなくなる傾向にあること。もう一つは同じ病気に関して複数の病院で診療を受け、同じような検査の実施・同じような薬の処方がなされることを防ぎ、医療費を抑制したいという狙いです。ただ、日本医師会がこうした取り組みを行っているにもかかわらず、かかりつけ医の考えが社会全体に普及していないのが現状だと言えます。

 

広く一般に制度が浸透していない理由

医師がかかりつけ医として認められるということは、医師と患者の双方にメリットがあります。医師としては、信頼してくれる方が多くなっていい評判が広まることで、集患の面で苦労することが少なくなり経営も安定します。一方の患者側にしても医師と良好な関係を築くことでいざという時に何でも相談できて頼りになる存在がいれば、日々の暮らしにおいても安心感が違うはずです。ただ、これだけ有意義であるにもかかわらず、「日医かかりつけ医機能研修制度」がまだ医師の間でもあまり浸透していないのはなぜなのでしょうか。

その理由の一つとして、慢性的な医師の人手不足と高齢化が挙げられます。厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査によると、医師の総数は増えているものの、主にかかりつけ医の役割を担っている診療所の医師の数はここ何年も横ばいで増えていません。また、2012年の段階で診療所の医師の5人に1人は70歳以上という結果も出ています。医師免許には更新がないため、すでに引退している方も数にカウントされます。つまり、実態は調査結果よりもより厳しい状況であることが想定されるのです。

そして、かかりつけ医には患者のどのような悩みにも応えるべく、自身の専門領域だけでなく幅広い医療知識が求められます。しかし、医師不足で手が回らない状況であったり、医院経営に時間を割かれることで新しい知識を得る機会が減少していたりすることで、そうした制度への参加意欲が低くなってしまっているのが現状です。特に診療所の医師は、現状維持で精一杯であることも多く、新しい取り組みに対して足取りが重い傾向にあります。

 

一人ひとりの医師が意識を高めることが大切

日本の医療業界でかかりつけ医を浸透させるには、まだまだ時間がかかりそうですが、国外ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。欧米では古くからかかりつけ医が制度化されている国が多く、英国ではGP(General Practitioner)と呼ばれるかかりつけ医の診断なくして大病院にはかかれないという制度も存在します。1年間に医師の診療を受ける回数に関しても日本の12.9回に比べ、英国は5.0回、ドイツは9.9回(経済協力開発機構(OECD)調べ)と少ない回数に収まっています。これはかかりつけ医が制度化された欧米では、信頼できる医師を探すために病院を転々とする必要がないということも一因として考えられるでしょう。

古くから制度化されている欧米のように、日本もかかりつけ医の考え方や制度を定着させるのは簡単なことではありません。しかし、だからといってこのまま手をこまねいていては早晩、日本の医療業界はさらに厳しい局面を迎える可能性があります。そのため、一人ひとりの医師が医療業界を背負うという意識で、将来について考えていかなければなりません。

日本においてかかりつけ医を浸透させていくためには、医師一人ひとり、特に若い世代の医師が積極的に研修に参加していくことが大切です。それと同時に、患者に対してもしっかりとコミュニケーションを取り、かかりつけ医の重要性をアピールしていく重要になります。まず、自身が意識を強く持つこと、そして“かかりつけ医としての安心感”を患者にしっかりとアピールしていくこと。この2軸の取り組みを徹底することで、かかりつけ医という存在は社会にもっと浸透していくのではないでしょうか。